青々と広がる水田集落の向こうに、新興住宅地が整然と並ぶ矢巾町。純農村の風景と都市の顔が混在するこの町には、4つの小学校と2つの中学校がある。平成16年4月から稼働した矢巾町学校給食共同調理場で作っているのは、6校合わせておよそ3000食。食数としては県内有数の規模だが、一方で地産地消へも積極的に取り組んでおり、平成19年度は野菜を中心にした県産食材の利用割合は約64%で、加工品や水産物も含めると約72%と県内トップクラスの規模。なかでも町内産の食材利用割合は55%を超えているほどだ。

最新の調理システムが導入された矢巾町学校給食共同調理場 |

回転釜はじめ炊飯やオーブンなど厨房はオール電化 |

給食だよりや特製ポスターも作って地域農産物と生産者を紹介 |
矢巾町では自校式から協同調理場への移行を機に、町内産最優先の食材供給を「JAいわて中央」と協議して合意。供給方針を町内産から順次JA管内産、県内産、国内産とする覚書を取り交わした。現在はJAいわて中央の関連会社で、直売所などを運営する「JAシンセラ」がコーディネータとなり、牛乳とパンなどを除いた給食用食材のほとんどを調理場へ一括供給している。この方式によるメリットは食材の安定供給や支払いなどの事務経費削減など多いが、「一番は地域の新鮮で安全な食材を豊富に使えること」と、学校栄養職員の菊地いずみさん。吉田亜希子さんとともに創意工夫を凝らしながら、矢巾らしさあふれる献立作成を行っている。

学校栄養職員の菊地いづみさん(左)と吉田亜希子さん。
「地産地消が矢巾の基本です」 |

15人の調理士さんはほとんどが矢巾町出身 |
この日は「岩手食財の日」にちなんだ献立。雑穀ごはんに三陸海藻汁、鮭の南部焼き、ふきの煮物、町内産の100%りんごジュースである。
「なんといっても、矢巾はお米が美味しいんですよ」と菊地さん。調理場で炊くごはんには七分搗きにした矢巾産ひとめぼれを使用して、米本来の味を楽しめるようにしている。さらにこの日は町内産の雑穀も入れて栄養価もアップ。煮干しでだしをとった汁物には、三陸産の海藻と矢巾産の長ネギがたっぷり。矢巾の特産のシイタケは、今回はフキの煮物に利用した。和食中心の献立が多いのは、やはりごはんが美味しいから。また地場産食材をより多く使うという方針で、野菜などの規格にはあまりこだわっていない。「その分、みんな頑張ってくれています」と、菊地さんらが頼りにする調理士さんは、多くが自校式時代から給食作りを手がけてきたベテランである。

栄養指導は町内各校でもコンスタントに行われている |

川村町長の楽しいお話に笑顔。緊張もほぐれてきたかな? |

「残さないように食べよう!」と友達の分も盛ってあげていた |
給食へ野菜を提供している中村憲吉さんと安子さんご夫婦は、春から秋にかけて4種類の長ネギを栽培する。「とにかく肥料を欲しがる作物だから」と半月に1回の追肥をかかさず、またきめ細かな土寄せを行って大事に育てた春物の長ネギは、3年をかけじっくり株数を増やしてきたもの。奥の畑には秋ネギの芽が10センチほど伸び、またキャベツも結球が始まっていた。「そんな野菜作りの現場を伝えたい」と、栄養職員の菊地さんらは給食だよりに生産者紹介レポートを記して学校はもちろん矢巾町役場などにも配り、地域からの食育活動にも取り組んでいる。

「今年の春は水が厳しかったね」とネギの具合をみる中村さん |

春ネギは分けつするのが特徴。ロスは多いが柔らかくて美味しい |

長ネギほか米やキャベツも栽培。キャベツの収穫は6月下旬頃から |

安子さんから野菜の話を聞く菊地さん。給食だよりで紹介 |

矢巾で七代に渡って農業を営む、中村憲吉さんと奥様の安子さん |
矢巾中学校での給食タイムでは、川村光朗町長をはじめとする来賓と阿部道子校長先生らが2年5組の生徒と一緒に給食を食べた。菊地さんからの献立紹介に耳を傾ける表情はみんな真剣で、阿部校長は「これも貴重な体験」と歓迎する。食缶に少し残った汁物や煮物も「もったいない」と率先して取り分ける5組の生徒たち。空っぽになった食缶に、菊地さんもうれしそうだった。
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