北限の茶を守る気仙茶の会会長の菊池司さん、奥様の東代子さん

いわての底ぢから

第9回陸前高田市 北限の茶を守る気仙茶の会 菊池司さん


菊池さんの米崎りんご。完熟で収穫された深紅の実


夫婦二人、待っているお客様のために箱詰めに精を出す


昨秋の台風被害などで収量は半減、厳しい状況だった

 陸前高田市米崎町は、沿岸有数のりんご産地。道沿いには直売所が立ち並び、地域内のあちこちに大小さまざまなりんご園がある。栽培の歴史も明治時代頃までさかのぼり、戦後は米と交換されるほどの貴重品だったという。
 そんなりんご栽培とともに、この地域で受け継がれ、守られてきたものがある。「北限の茶」として知られる、気仙茶である。
「昔はどこのりんご園の畦畔にもお茶の木が植えられて、土留めや隣家との境界になっていたんだ。摘んだお茶は機械が導入されるまで、各家庭で手もみによって作られていたが、導入後は工場へ持ち込んで製茶して。お茶は自分たちで作るもの、買って飲むなんていう感覚は全然なかったね」。
 広田湾を眼下に望む米崎町の高台で、評判の米崎りんごを栽培している菊池司さんが話す。代々受け継ぐりんご園の一画には、大きく枝葉を伸ばしたお茶の木が確かにある。「樹齢は?」「100年は経ってるんじゃないかな」「大きいっすね」…たった1本残った古老の茶樹の周りに集まったのは、奥様の東代子(とよこ)さんはじめ市内在住の小野文浩さん、愛媛出身の山岡加奈さん、そして内陸からやってきた佐藤学さん、前田千香子さん。菊池さんが会長をつとめる「北限の茶を守る気仙茶の会」のメンバーと、ボランティア仲間たちだ。


気仙茶の会のメンバーと仲間たち。左が菊池家に残る茶樹


眼下に広田湾。あの日、ここで菊池さんは津波を見ていた


竹林の手前にあるのが茶の木。竹林の中にも実生が

 同会の誕生は平成24年。長年勤めた陸前高田市農協(現JAおおふなと)を退職し、りんご栽培に専念していた菊池さんの元に、前田さんが「気仙茶の話を聞かせてほしい」と訪ねてきたことにはじまる。前田さんは雫石町で焙茶工房を営む傍ら、8年ほど前から高齢化などで荒れていた茶園を手入れするため、陸前高田市や大船渡市をひんぱんに訪れていた。
「気仙茶を残したいという思いを前田さんから伝えられて、その日のうちに(活動しようと)決めた。自分も関わってきたことだし、やっぱりお茶のことが頭から離れなかったからね」。
 菊池さんはお茶作りが上手だった祖母の元で気仙茶の味と香りに親しみ、農協時代には製茶工場の建設担当として奮闘、建設後も気仙茶の普及と生産量増加のため茶の植樹に携わってきた。高度経済成長の影でどんどん茶を摘む人がいなくなっていく現実の中でも、製茶が行われる日にはわざわざ見に行っていたともいう。気仙茶を残したいという思いは、実は誰よりも強く菊池さんが抱いていたのかもしれない。
 会の活動は、逆境のまっただ中から始まった。前年に発生した東日本大震災は、津波による茶樹の枯死と、福島第一原発事故による放射能汚染という重い現実を気仙茶につきつけていたからだ。その年はすでに岩手県が出荷自粛要請を出しており、メンバーは翌春に向けて除染のための剪定と荒廃が進む茶園の調査や管理にいそしんだ。また一方で、気仙茶に関わった人々への聞き取りや地域内外でのお茶会やワークショップなどを重ね、気仙茶という『地域文化』への理解や共感を増やすためにも動き続けた。


お茶の花は晩秋に咲く。椿に似た白くて可憐な花姿


津波を被り、一度は枯れたものの再生した茶の木


深く剪定された株元から伸びる枝葉。なんという力強さ

「菊池会長が何でも受け入れてくれるのは地域に対する思いの表れ。お陰で、私たちは陸前高田の人々と繋がることができている」と、同会の事務局をつとめる前田さんはいう。その言葉通り、山岡さんの所属する国際ボランティアNGOのNICE、京都の龍谷大学、そしてJAおおふなとの有志など、気仙茶を後世に残すため、たくさんの人が活動に参加した。
 そして迎えた平成25年6月。実に3年ぶりに、気仙茶の茶摘みが行われたのである。
「100年を越す古樹も深く剪定した。春先までは芽が出るか心配だったけど、切り詰めた幹からごま粒のような芽が出てきた時は本当に感動したし、お茶の木がどんなに強いのかも知った」。強剪定という荒療治が、気仙茶の持っていた力を引き出したのだ。
 待望の茶摘み再開を受け、各所で“新茶”試飲会や伝統の手もみ茶作りも行われた昨年。その嬉しさを噛み締めながら、菊池さんは会のメンバーとともに今後の夢を描いている。
「一番は、地元の高田の人たちが気仙茶を飲める場所づくり。それと茶園を持っている人が、もっと気軽にお茶作りをできるようにしたい。お茶を通して地域の輪を作りたいね」。
 絶望の縁から再生した気仙茶は、お茶という存在を越えて人々を結びつけ始めている。

(取材日/平成25年12月8日、取材・撮影/フリーライター 井上宏美)


茶会を催し、気仙茶の魅力を伝える前田千香子さん


昨年8月には、気仙茶の挿し芽づくりを初めて行った


作った挿し芽。無事に根が着き、確実に生長している


JAおおふなとが管理する製茶工場。昨年は久々稼働した

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